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これはクソ長レビューである
小説レビュー  |  2022.10.17 01:49
 三石 一枚  |  ヒット数 : 299 (重複含む)
異世界逆襲談 貴族パーティから追放された平民のアサシン。屈辱を与える為の成り上がり
作家 : deke

貴族制が重視される国で、自分よりも爵位の高い貴族にパーティを追放された不遇職、アサシンの逆襲から始まる物語。 表紙の素晴らしい挿絵は @natuyu_tan さんが描いてくださいました。 小説家になろう アルファポリス ノベルピアで連載

 先ず三話、読ませていただきました。
 長くはなりますがご了承ください。

 先に感想を述べますと、貴族と平民、在るべきは互いの譲歩、である。
 以下は私は感じた話になりますので、面倒であれば読み飛ばしてください。


 人間の生み出した合理的かつ最大の発明は何か。答えは三者三様、十人十色、千差万別様々な答えが返ってくるだろう。電気か火かエネルギーの貯蓄か。もちろんこれらも当たりである。何よりそれは動物という区分がそういった概念を認めたということ自体、星の誕生から現世に至るまでの永い永い期間内でどの種なしえなかった最大の発明と言える。言わずもがな、犬も猫も、人に近いチンパンジーでさえ電気の内情を解さない、つまるところこれは確かに、人間という種が持つ最大の発明、あるいは気付きともいえるものである。
 とはいえど私はもう一つの発明を推したい。それは、『価値』の発明である。貨幣というものがない時代、人々は別種の物々交換に根詰まっていた。肉と魚の交換、皮と武器の交換、そういった価値として見合うもの同士を交換するという時代、だがこれはうまくはいかんだろう。質量も素材も何もかも違うものを、当人同士で交換しようものなら必ず欲が出る。欲が出れば不服が現れ、不服がもとでいさかいができる。存外、価値の天秤を平衡に手向けようとすることは難しいものだったろう。
 世代がかわり、物品を交換する際、ワンクッションを置く制度を設えた。言わずもがな貨幣、いわゆる価値を表すものである。石貨から始まったこの制度は、物の有する価値を決し、それを石貨で支払うことで手に入れる、という物々交換にはない斬新的なものだった。言い換えれば、何の素材も持たぬいくら手先の融通の利かないものでも、石貨を持てば物を手に入れられたもの、と考えられる。

 画期的で合理的なものだが、私が推したい理由は別にある。それはこれができたために新しく生まれた弊害だ。価値が生まれ、ものを多く受け取ることが出来る者が増えた一方、貨幣がない物たちは酷いレイシズムにあう。これはもともと価値という概念がなかった世代ではありえなかった新しい階級の差である。
 イルカという賢い生き物は、仲間内でいじめを行い、ひどい時には被害者は殺されてしまうそうだ。人も同じで、なまじ知能が発達した生物というのは、権の弱いものを虐げることで悦を生むというとんでもない性質を秘めている根本があるらしい。ともすればこの価値の存在は、人の有する昏い本性を露わにする、とてつもない起爆剤ともなりえるのである。

 長くはなったがこの話も、そういった人の昏い本性が露わとなった国が舞台である。以降、一話ごとの感想とさせていただく。



 第一話、忘却の果て

 エルタネ公国。貴族領、高級ラウンジ。文面からして、ギラギラとした金色の風景が浮かぶようである。もうに羽振りの良い四人の冒険者、うち一人は、皆が高級ワインに顔を赤に染める中で水を嚥下していた。
 各々が自らの戦果を示す中で、一方静謐を極める人間が在る。まるで自分にはそういった光明が特にない、と言わんばかりの清閑具合である。加えてこの少女の召す物は他と違い、酷く簡素なものだった。
 伺いしるに、彼女はおそらく場の違いを感じているのだろう。己の居るべきはここじゃないと。それも、傲慢チキからくるものじゃなく、自分にはいる資格がないと、己の階級を自覚しているように見て取れる。
 想像通り、パーティと称された集団の主要は下種を絡めた男である。物静かな少女を面罵し、哄笑し、気分良く酒を煽る。ある意味では人らしい所業である。
 リーダー格はメインイベントというものを仕込んでいた。それは新しい仲間の紹介である。
 プリーストを名乗る少女は、まるで一切の曇りを知らぬ瞳を持っていたものだろう。出自は貴族にあるとしても、しかし決してその遍歴を驕らず、あくまで人を救うために大公という地位を狙っているようだ。
 平民の出とされた彼女は礼儀が正しい。新人の到来を快く受け入れ、場をつなごうとする。が、その場を差して無下にするは顔を赤らめたほか三人である。酒気に脳を焼かれ、場の空気を読めなくなったかと思ったが、おそらくこの三人は地で性格が終わっている。
 三人は、キノと呼ばれた少女には後がないということを明かす。問いただすと、用意されたるは八千万エールという大金。一人二千万エールを持ち帰れるということだろう。
 だが、キノという少女には焼かれた竹炭のみ。
 これに関しては三国志にある曹操の空箱が元ネタだろうか。荀彧にたいして空箱を渡した逸話がある。解釈はわかれるところではあるが、お前はもうこれにて用済みだ、という意味合いを空箱から解した荀彧は派遣先で毒薬を呑んで亡くなってしまう。とどのつまり、無価値を渡すことで、対象に対しての気持ちなどこれ程度で十分という意味を持たせた隠喩かもしれない。

 煮えを切らしたキノはクビを受け入れた。焦るユエル。第三者から聞いても、彼らパーティの言うキノに対する不満というのは、どっちらけなものばかりだった。
 ユエルは恐れることなくこのパーティに抗議するが、キノがそれを黙らせた。なんというか、キノという人物の心根の太さが垣間見れるシーンではなかろうか。

 キノはラウンジを去る。足取りが酷く速い様子が、何となしに感じられるものだった。


 宝箱を開けたら希少価値の高い素材が、という流れがあったが、その大金にありつけた根本はキノの解錠能力のおかげではないか。救いようのない奴らである。



 第二話、これから
 
 勘定をしようとするさまはキノの律義さが見て取れる。物わかりの良い会計者で良かったろう。
 髪を自分好みに染めたいけすかない~という文面を私は貴族の特徴とラウンジにおける運営の解像度と解した。
 分限も知らず己のやりたい放題を貫く貴族を相手取って、だがラウンジの人間はあくまで規律をもって接しているから所謂、傲慢さがない。綺麗さを残す接客がゆえに、キノも貴族領のすべてを険することなく、ここだけは嫌えなかった。
 ここの木彫り人形の下りは何か胸に引っかかる、さては伏線か。
 キノのたちさったラウンジでは、ひと悶着が起きていった。先ほどのパーティ共が、払える金がないと言い出したらしい。終には貴族の名を使って無銭飲食をたくらんだかと思えば違った。
 本当に金がなくなっていた。
 ところ変わってキノは重たくなった体を引きずりながら闊歩している。私はこの時点で彼女が好きになった。芯が固く、そして強い。言われるままに終わらぬ我を持っている。己の手先の自由度をうまいこと利用したらしく、金をスッたのだ。

 キノはその足で衣服店に行った。なるほど、もはや彼女においては冒険者として身を任せていた衣類は不要だろう。おろか懐刀も必要でないのかもしれない。
 キョーレツな店主に抑え込まれてずるずると流される主人公が見れる。
 私個人の感想だが、こういったすこし近寄りがたいクール系の主人公が、熱の強いキャラクター、あるいは濃い個性を持つキャラクターに否応なく流される光景はたまらないほど好きである。結局気圧されてる憂き目にあうも、ちょっとまんざらでもなさそうな表情をされた日には頬筋が弛緩し、たちどころに口元が吊り上がる。可愛いものだろう。

 彼女は衣服の更新を望んだ。その際、今まで相棒として着こなしてきた衣服を捨てることを決意した。

 強さとは弱みを護る外殻である。
 強がることを要しなくなった時、彼女の堅固な楼壁はうちくずれ、中身のどろりとした弱みが体外へ流れ出た。悔しくないはずがない、彼女はこの時、冒険者として最も必要な資格、冒険をしたいと思う心を亡くしたのだろう。




 第三話、憧れの人
 
 彼女はスラムに生を受けたスラム出身の者だったそうだ。あの魯鈍を極めた貴族のガキがいう平民とはこのことか。
 互いの過去のことを語るところから話は始まる。キョーレツなキャラクターがかく語りき。
 要約すれば「小事の一件が方寸に隠した暗い影を明るく照らしてくれた」とのこと。
 彼の出会った少年の何気ない言葉が、この店主の霧の覆った心中の煙を払うきっかけとなったのだろう。現MMA選手の朝倉未来選手が「多くの人が紙一重の選択で人生を大きく変えている」という言葉を残している。正鵠を失わん話で、この人に然り何に然り、結局のところ僅かばかりの心の思い違い一つで成るか成らぬかはきまるものだ。この人は成った。ともすれば、これはキノにも当てはまる話しだろう。
 彼女の過去は凄惨なものだった。貴族における余興感覚で行われた殺戮をしのいだといっていい。とはいえ彼女も手を黒く染めて生きてきた人間である。明るみに成れぬ過去を持つから、このふざけた事件で命を失うことも、然もあろうと諦観を持っていた。しかし彼女は助かった。故を知らぬ訪問者が、その事態を収めたのだ。
 以来、彼女はその強さに届くために努力をした。きっとその内には、血反吐を吐き、血豆をつぶし、血涙の噴き出るまでの研鑽を積んだのだろう。だがそれも結局、出自の嫌悪を根元にした貴族との諍いのせいであきらめざるを得なくなった。彼女の感情は震えて止まらなくなる。
 そんな彼女を叱咤する店主。なるほどこの人も良い人だ。
 さて、キノだが実際のところポテンシャルは他にない物をもつ。高度な擬態能力である。なるほど彼女の属していたアサッシンとは天職ではなかったか。
 そうしてもう一つ、呪いと称して彼女の隠していた身体的特徴が挙げられる。
 それは……。

 
 
 統括したい
 
 一話は所謂追放物でよくみられる光景かもしれないが、この時は貴族と平民、権の強さがより表面に出されていて、読んでいて苦虫をかみつぶした顔にならざるをえなくなった。金銭問題が浮かぶレイシズムは基本的に胸糞の悪い後味を残す。己の膂力による賞賛じゃないにかかわらず、ただ生まれが良かったがためだけに、親の脱ぎ捨てた衣を拾って着衣し、親の歩いた道筋を闊歩し、己の巧妙でないに関わらず、体内に同じ血液が流れているというだけで己はすごいと錯覚を起こし、剰え己の身で困難を乗り越えたこともないくせには人にいっちょ前によい格好をする。そうして、自分の功績じゃない功績をわがもの顔で見せびらかすわけだ。
  当初のパーティの奴らもおそらくそれらと同じだろう。金があるというだけで彼らに地力があるとは限らない。
 無理に着飾られた鮮色の花畑より、泥畑で粘りに打ち勝ち地力でのみに咲いた蓮のほうがよっぽどきれいに見える。主人公キノとは、泥海にさく筋の通った一本の花のごとき主人公だった。

 
 さて、感想は、貴族と平民、在るべきは譲歩、である。
 謙遜というものがある。残念ながら、三話までのところではユエル以外にこの謙遜を使いこなせる貴族は居なかった。いくら己のもつバックグラウンドが強権なものであっても、理性がともわぬものであるなら意味がない。価値とは、理性が働いて初めて効力が十分に発揮されるものだろう。
 良い所の猫も下水道に棲むネズミの歯にかみつかれれば疫病で死ぬ。隷属出身のやせこけた革命家が、肥え太った王様の首をかき切ることも世にある中で、価値を持っていれば何をしても赦されると『錯覚』を起こしたままに生活すると、いつかは大きなしっぺ返しを食らうことになる。
 主人公キノもこの一件で貴族を毛嫌いすることになるかもしれないが、ユエルのごとき聖人もある。
 彼女も譲歩をして、こういった出自にとらわれぬパーティを作って彼女の目標とやらに到達してほしい。

 大変楽しく拝読させていただきました。
 応援させていただきます。
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